目の前で、ジャノビーが倒された。
僕の手持ちで、最後の一匹だった。
なのに彼女の手持ちは、まだ全員いる。
ジャノビーが負けた相手が、フタチマル。
相性はいい筈なのに、いつも倒されてしまう。
「お疲れ様、フタチマル。ゆっくり休んで」
あまり傷付いていないフタチマルの頭を撫でて、ボールへ戻した。
何で、どうして。
「どうして、僕は君に勝てない?　僕と君の、何が違うんだ?」
そう問いた僕を、トウコは一瞥して、目を逸らした。
「沢山トレーナーとも戦って、勝ち続けて来たのに、
どうして君には勝てないんだ?　そんなの、おかしいだろ!」
「………そんなの、知らない。勝つとか負けとか、私にはどうでもいいの。
私の中でバトルは、勝ち負け関係なく、楽しむものだと認識してるから」
「楽しむもの……?　バトルは、勝つものだろ?　僕は強くなりたい。
だから、チャンピオンになる」
強くなって、チャンピオンになって、僕は。
「強いと言う事だけが、本当の強さじゃない。チャンピオンだって、
強ければいいと思っていたら大間違い。…今の貴方じゃ、到底
チャンピオンには敵わない。答えに辿り着けない限り、私にも勝てない。
それ以前に、答えにも辿り着けないかもね」
「じゃあ……じゃあ教えて欲しいよ!　強さって何なのか!」
声を荒げて、トウコに問う。その瞬間、トウコは鋭い瞳で僕を睨み付けた。
「そんなの、自分で見つけなきゃ意味ないでしょ!?」
「―――!!」
「……自分にとっての強さ。それがなんなのかは、自分で見つける事。
人に聞いちゃいけない。強さは、人にとってそれぞれだわ。
……私はもう、とっくの昔に見つけてる。私にとっての、強さが何なのか」
トウコはボールを前に突き出して、僕に告げた。
「信じる事。ただそれだけ。それが、私の強さになる。力になる。
私が望む、全ての形になる。それだけで、ポケモン達が答えてくれるから」
背中を向けたトウコは、そのまま歩いて行ってしまう。
けれど、数歩歩いて、立ち止まって。
「……答えに辿り着ければ、貴方はもっと、強くなれるのに」
そう呟いて、彼女は去ってしまった。
どうしても、分からない。強さって、何なのか。
彼女の考えが、その時の僕には、何も理解出来なかったんだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完

後書き
ゲームプレイ中、確かにチェレンの考えは間違っていないけれど、
私はどうしてもその考えを理解出来なかった。
チェレンと会話をする度、バトルを終える度に、胸が締め付けられて、
少し悲しくもあった。バトルに勝って勝つ事だけが、強さじゃない。
これはあくまで私の考えを小説にしたもの。
チェレンの考えをどう思うかは、人それぞれですから、ね。

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静かなヤグルマの森。
ポケモン図鑑を完成させる為に、僕はこの場所へとやって来た。
ここは、ポケモン達の楽園。自然が豊かなこの場所で育つポケモンは、
皆生き生きとしている。舗装された道を逸れれば、
人が手の付けていない自然が広がる。
そこで偶然トウコと出会って、僕達は茂みの中へ場所を移した。
「あの時、私、Nの手を掴めなかった」
いきなり何を話し始めたかと思えば、彼の事。
彼は最後、彼女に「サヨナラ」と言う永遠の別れの言葉を告げて、
レシラムと一緒に、何処かへ飛び去ってしまった。
彼女は、彼に好意を寄せていた。
彼女と彼は対立し合っていたのに、それでも彼女は、彼を。
「私、彼が好きだった。引き止めたかった。それでも、出来なかったの」
彼がいなくなって、トウコはあまり笑わなくなった。
幼い頃のトウコは、いつでも笑っていたのに。
僕に向ける笑顔すら、僕は偽りの物と思えてしまうから。
きっと彼女は、僕の心に気が付いていないのかもしれない。
幼い頃から抱き続けていた、彼女に対しての特別な感情を。
「トウコ」
「何?」
「………笑って欲しい」
「……?　笑ってるわよ?」
違う、君は。今の君は。
「気付いてない?　君はずっと、泣いてるよ」
彼女の見開かれた目。涙は見えない。けれど、彼女の心が泣いてる。
「だから、笑って欲しい。Nと別れる前、君はいつも笑っていた」
「………そうね、うん。…努力するわ。心配してくれて、ありがとう」
君の事は、よく知っている。幼い頃から、ずっと一緒だったから。
彼女の中からNがいなくならない限り、彼女はきっと、僕を見てくれない。

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