夜中、眠れず覚ました目。
ここ最近、充分に睡眠を取れない日が続いていた。
そうとなると、自然に苛立って来る訳で。
トウコはその苛立ちから、濡れている髪をグシャグシャに
掻き乱した。
こんな事をしても、その苛立ちは消せず。
そんな苛立っている自分を情けなく感じ、ため息を吐く。
「もう嫌……」
眠れない、長い夜は。
眠れずに、その間ずっと携帯の画面か、空を見ている。
そうして夜を過ごしていると、いつもは短く感じる夜も、
長く感じてしまう。トウコは、長い夜が嫌いだった。
真っ暗な闇の中、照らすのは街にある街灯と、月と星だけ。
それしか、光が存在しないのだ。
太陽は沈み、今頃眠っているだろう。陽が昇るのは、何時間も先。
「デント……」
無意識に呟いた、恋人の名。もう、きっと眠ってしまっているだろう。
だが、こんな長い夜だからこそ、彼の声を聞きたい。
そんな願いすら、時間は邪魔をする。
夜は、嫌い。夜は、怖い。暗闇は、果てなく続く。
「怖い……」
暗闇の中に、大切な人が消えてしまいそうで。
いつもは抱き締めてくれる腕も、今はない。
抱き締めてくれる人さえ、いない。

〈大丈夫だよ、もう怖い事はないから〉

一番欲しい言葉。けれども、その言葉を
頭の中で再生するだけしか、声を聞く術はない。
恐怖を拭う術は、ないのだ。
ベッドサイドのランプを点けて、自身の机へと向かう。
机上にある写真立ての中から取り出した、一枚の写真。
そこには、デントと映る自分がいた。

〈トウコ。僕は、いつでも君の傍にいるよ〉

写真からそう聞こえた気がして、自然に零れる笑み。
その写真をベッドに持って行き、枕元へ。
寝転んだ時、窓から見えた月が、美しいと言う言葉だけでは
表せない程に、幻想的な、神秘的な光を放っていた。
「明日、会いに行くわ」
月に映る彼の顔。そう、会いたい時はいつだって会える。
明日も、明後日も、明々後日も。最も、デントがそれを望んでいるか。
だから今日だけは、どうかいい夢を見させて。
トウコは、月に祈りながら目を閉じた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完

後書き
え?　変なテンションじゃない?　言ったでしょ、真面目な小話だって!
分かっていると思うけど、デントは死んでないよ!!
ちゃんと生きてるよ!!　中盤なんか書いていてこれ死ネタフラグ?
って思って、最後はきちんと生きてるフラグにしたよ!
これ死ネタフラグじゃないでしょ、なんて思っても構わないよ!!
私個人で思った事だからね!!
苛々して、それか何か気になる事とか悩み事があって眠れない日って
あると思うんだ!　トウコの場合……。
……思春期（?）だから色々あるんだよきっと!!
それじゃ、お休み!!　そして変なテンションは冬コミが終わるまで続くと思うよ!!

△閉じる△

デント、コーン、ポッドの三つ子が経営する
レストラン。正しくは、サンヨウジム。
閉店後、トウコがジムに訪れ、掃除を手伝っている。
ポッドはコーンと共に厨房へ、そしてデントとトウコは
人々が使うホールを。隅から隅まで、掃除をして行く。
トウコはそれだけで充分幸せだった。
掃除をしている途中、デントが突然手を止めた。
「トウコ」
「何?」
「こっちに来て」
トウコはテーブルを拭いていた布巾を
そのまま置くと、デントに歩み寄るなり、
突然抱き締められた。
「ちょ、ちょっとデント?」
「トウコ、君が好きだよ」
「……ちょっと、突然どうしたの?」
「どうもしないよ。ただ、君に触れたくなっただけさ」
トウコの髪を指で絡め、そして優しく額にキスを落とす。
デントは、やる事がいつも唐突で、彼女も戸惑いを覚える。
「いつも私に触れてるでしょう?」
「僕は、君にずっと触れていたいな。嫌かい?」
その問いかけに、トウコは顔を赤くしながら首を横に振った。
「トウコ、僕は、君を愛してるよ」
「……私も、好きよ。大好き」
それを聞いたデントは、優しく微笑みトウコに優しくも甘い口付けを。
唇を離し、デントはトウコの前髪を掻き分ける。
「君を、世界中の誰よりも愛してる」
「フフッ、デントってば、そればかり」
可笑しそうに笑うトウコに釣られ、デントも笑みを浮かべた。
愛している。それは、魔法の言葉。

トウコ、僕はこれから先も、君を愛し、守って行くよ。

オマケ
「なぁ、オレ達、いつまでここにいりゃいいんだ?」
「我慢して下さい、二人の為にも。ここは暖かく見守るべきです」
厨房の陰で、呆れた様にため息を吐くポッドと、
暖かい眼差しでホールを見詰めるコーンだった。

完

後書き
サンヨウジムって、ジムと呼んでいいのか
レストランって呼んでいいのか分からなくなる。
そしてコーンの性格が本当分からない。
どうしても敬語キャラで定着してしまう。
ポッドは呆れてるけれど、きっと心の隅では
二人をとても祝福している筈。言葉には出さないだけで。
そしてコーンは、その祝福の心を言葉や形にするタイプ。
そして二人の事を、呆れず暖かく見守っていると思います。
デントは、一目気にせず抱き締めたりだとか、
キスとかしちゃいそう。多分見せつけてるんだと思う。
さり気なく自慢しているんだよね、トウコの事。
そしてデントのファンの子達はトウコに敵対心
剥き出しだといい（笑）

△閉じる△

「君の香りは、最高級品だね」
そう言ったデントは、トウコの髪をすくい上げ、
香りを嗅ぐ。トウコには、そう言った自覚は全くない。
恐らく、シャンプーの香りだろうと、トウコは心の片隅で思っていた。
「なぁ、デント。そんなにいい香りするかぁ?」
その光景を見ていたポットが、直接トウコの周りを嗅ぎ回る。
すると、デントは小さく頷いた。
「うん、とてもいい香りだ。ポットには分からないんだね」
「ポットは何かと鈍感ですからねぇ……」
「何だと、コーン!」
呆れ気味にため息を吐くコーンに食ってかかろうとしたポットを、
トウコが止める。
「あのさぁ、目の前で兄弟喧嘩されても、こっちが困るんだけど」
少々刺々しい言葉に、ポットは押し黙る。
するとデントを振り向いて。
「ごめん、デント。私、もう行くわ。また来るから」
「うん。無茶して、怪我しない様に」
「ご心配なく。私には頼もしい仲間達がついてるわ。
フフッ、じゃあまたね。今度、クッキーを焼いて来るわ」
小さく手を振り、ジムを出て行くトウコを、三人は見送った。
「本当、デントは彼女を愛しているのですね」
「うん。だって、あんな素敵な人、何処を探してもいないよ。
それに彼女の香りは、どんな最高級の料理よりも、どんな美しい花よりも。
果実の様に甘く、けれどしつこくなく、上品な甘さ。それが僕は大好きなんだ。
勿論、トウコ自身も含めてね」
「あー、デントの惚気話も聞き飽きたわ」
だるそうにそう言ったポットに、二人は可笑しそうに笑った。
すると、壁に設置された時計の鐘が鳴る。
「さぁ、惚気話もここまで。仕事開始だよ、ポット、コーン」
パンパンッと手を鳴らして、厨房へと入って行く。
その楽しそうな後ろ姿に、二人は微笑み、デントの後を追った。

どんな香りよりも、君の香りが一番好きなんだ。

完

後書き
デントは本当トウコにゾッコンだと思うよ。
もうポットは、デントの惚気話を聞き飽きていると思う。
けれどそれはポットだけ。コーンは楽しんでいそうだなぁ。
ポットは鈍感そう、コーンは勘が良さそう、デントは……。
……あれ、思い付かないwww
と言う事で、ここで失礼します(^^)ノシ

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